約 31,301 件
https://w.atwiki.jp/monsters/pages/253.html
人魚と魔術師見習い 完 859 ◆93FwBoL6s.様 夢ではない証が、全身に染み付いていた。 体温の抜けた精液が産卵管の奥底に溜まり、互いの体液が混じり合ったものがウロコに付着していた。ビニールプールに張った水に身を沈めているミチルは、火照りが抜けなかったせいで寝付けず、ぼんやりと天井を仰いでいた。カーテンの隙間から差し込んだ朝日が埃っぽい空気を輝かせ、ほのかに水を温めていた。その温もりは広海の体温とは程遠いが心地良く、ミチルはごぼりとエラから水を吐き出しながら感じ入った。 上体を起こすと、髪と肌から水が滴った。不自然な姿勢で力んでいたせいか、背中や腰だけでなく尾ビレも筋肉が重たかったが嫌ではなかった。改めて広海と交わったのだという実感が湧き、今度は恥ずかしくなる。胸元や首筋に散る赤い痕は広海が押し殺していた情欲の強さを思い知らせるようで、そこまで欲情されていたというのは嬉しいやら照れるやらだ。広海の寝室である六畳間から物音は聞こえず、広海はまだ目を覚ましていないようだった。なんだか寂しくなったミチルは、水を零さないようにしながらビニールプールから這い出し、畳を濡らさないためにカーテンレールのハンガーに引っ掛かっていたタオルで体全体を丁寧に拭いてから、襖を開けてみた。薄暗く狭い部屋では、広海が布団を被って熟睡していた。ミチルは彼を起こさないように気を付けながら、襖の隙間から体を滑り込ませ、ざらついた畳を這って広海に寄り添った。 不意にめくれかけた掛け布団の下から手が伸び、ミチルを引っ張り込んだ。思い掛けないことにぎょっとしたミチルが身を固くすると、メガネを掛けていないせいでやけに目付きの悪い広海がミチルを抱き締めてきた。 「ミチル、泡になってないよね? それが心配で、良く寝付けなかった」 「だったら、確かめてみればいいじゃない」 心配された嬉しさで胸が詰まりながらミチルが呟くと、広海はミチルの湿り気の残る下半身に手を滑らせた。昨夜と違って間に水が入っていないために直接肌に触れる手の温かさに、ミチルは甘ったるい余韻が蘇って背筋がざわめいた。広海の体に腕を回して抱き締め返すと、初めての性交に夢中だった時には解らなかった骨格の太さが腕に伝わってきた。触れ合うだけの浅いキスを交わしていると、広海の乾いた指がミチルの潤った産卵管に差し込まれ、内壁に付着している混じり合った体液と少し固まりかけた精液を掻き回した。 「く…ぅ、あっ…」 ミチルが懸命に声を殺そうと広海の肩に顔を埋めると、広海はミチルの内から指を抜いて顔をしかめた。 「やっぱり、ちゃんとしないとダメだね」 「なに、がぁ?」 呼吸を速めながらミチルが問うと、広海は再度深く指を入れ、白濁した固まりをミチルの内から掻き出した。 「ほら、これ。ミチルは僕のじゃ受精しないだろうけど、でも、中に入れっぱなしになるのは良くないから」 「広海の、出しちゃうの?」 「人間相手でもまずいけど、人間じゃないミチルにはもっとまずいだろ。だから、今度からはちゃんと準備するよ」 「私は、別に」 ミチルは広海を抱く腕に力を込め、頬を染めた。中に注がれた方が、彼に染められるようでいいのだが。 「あ…でも、これは僕がやらない方がいいかな」 広海は精液の固まりを掻き出した指を枕元のティッシュペーパーで拭いながら言うと、ミチルは首を横に振った。自分でやるよりも、やられた方が余程良い。広海は赤面し、朝っぱらからやることじゃないような、とも思ったが、ミチルの頼みを無下にするのはよくないと自分に言い訳して再び彼女の内に指を入れ、たっぷりと注ぎ込んだ精液を出来る限り丁寧に掻き出した。潤いが残る陰部をぐちゅぐちゅと掻き回され、最深部ではないが奥まった部分を指の腹で強くなぞられたミチルは、寝起きとは異なる意味で目を潤ませて広海に縋り、尾ビレで布団を叩いた。 「ひぁっ、あっ、んあっ…あぁっ!」 びくんとミチルが痙攣し、腕の中で脱力すると、広海はおのずと股間が反応した。昨夜、あれだけ酷使したにも関わらず、寝て起きたら元に戻っているのは若さの成せる業か。ミチルは達した余韻で浅く速い呼吸を繰り返し、広海に噛み付くようにキスをした。広海はミチルに応えつつ、寝間着と下着を下げて硬く充血した性器を押し付けた。 「そんなに強くはしないし、出す前に抜くから」 「うん…解った」 ミチルはしおらしく頷き、力を抜いた。広海は彼女の変わりように支配者じみた優越感を覚えてしまい、自分の欲望の罪深さをつくづく思い知った。好きだなんだのと言う以前に、美しい人魚を手に入れたかっただけなのかもしれない。それもまた恋の一端かもしれないが、あまり真っ当ではない。広海はミチルの少し冷たい内側に熱く膨れた異物を浸入させながら、ミチルを優しく抱き締めた。 「ミチル」 「ん、なあに、広海ぃ」 ミチルは息を弾ませ、広海と至近距離で見つめ合った。ぼやけた視界の中のミチルを見据え、広海は自嘲した。 「僕は最低だ」 「んっ…ぁあっ!」 ぐい、とミチルの奥深くを突いた広海は、ミチルの乱れた長い髪に指を通した。 「もっと早くに好きだって言っておけば、こんなにひどいこと、しなくて済んだだろうに」 もう一度深く突くと、ミチルの肢体は跳ねた。 「くあぅっ!」 ミチルが喉を仰け反らせると、広海はミチルを離すまいと細い腰を引き寄せ、緩やかに打ち付けた。 「だって、君は人魚だ。魚人族の亜種で、本を正せばれっきとした魚だ。繁殖方法は海中に産んだ卵に精子を掛けて受精させるわけだから、本当はこんなことはしない。なのに、僕がしたいからってだけで…」 「しないけど、し、したかったのぉ、広海とじゃなきゃ、こんなことしない、したくない!」 ミチルは広海に離されまいと、その腰をぐっと抱き寄せた。 「だから、そんなこと言わないでぇっ!」 「でも、もう、そろそろ」 込み上がってきた熱い固まりに気付いた広海がミチルの内から抜くと、ミチルはすかさず体を折って布団の中に潜り込み、口を開いて銜え込んだ。広海が慌てて布団を剥ぎ取るが、ミチルは広海の性器を懸命に吸っていた。人間よりも薄く冷たい舌がぎこちなく動き、硬い歯の先端が皮に触れ、宝石の粒のような雫が付いた髪を垂らした頭が上下する。広海はミチルを引き剥がそうとしたが、とうとう出来ず、ミチルの口中に迸らせた。 「…無理しないでよ」 息を上げながら広海が漏らすと、ミチルは生臭さと苦みに眉根を歪めながら嚥下し、ぬるついた口元を拭った。 「中に出してくれないんだったら、こうすればいいだけよ」 「全く、もう」 広海はミチルの強引さに呆れかけたが、ミチルは身を起こし、小さく咳き込んだ。 「それだけ好きってことなんだから、つまんないこと気にしないでくれる? 癪に障るから」 「解ったよ」 広海は下着と寝間着を引っ張り上げてから、ミチルを後ろから抱き寄せた。 「解ればいいの」 ミチルは広海に覆い被さられながら、水着の胸元を握り締めた。口中にはまともに飲んだ精液の味が濃く残り、喉には熱い固まりを飲み下した違和感が残っていたが、幸福感で涙が出そうだった。寝付くに寝付けなかったせいで何度となく見た虚ろな夢の中では、ミチルは泡と化して海に溶けた。その度に目を覚まし、精液の温もりと広海が付けた肌の痕を確かめずにはいられなかった。広海に髪や頬を撫でられながら、ミチルは頬を緩めた。 彼の腕の中は、春の海のように温かかった。 見慣れない道具が、縁側にずらりと並んでいた。 爪ヤスリ、ヘアブラシ、コンコルド、シュシュ、ヘアピンだと稲田ほづみは説明してくれたが、どれがどれなのかもミチルには把握出来なかった。だが、持ってきてくれるように頼んだのは自分なので、まずはどれが何なのか見分けを付けることから始めることにした。ほづみから教えてもらった名前とその物を一致させるのは苦労したが、なんとか覚えられた。ミチルは銀色に輝く金属製の爪ヤスリを取り、眺めていると、ほづみはミチルの手を取った。 「これはね、こうやるの」 「…うっ」 ざらついた金属板に爪先をごりごりと擦られる違和感にミチルが呻くと、ほづみは笑った。 「大丈夫大丈夫、すぐに慣れるから」 「でも、なんか、指まで削れちゃいそうな気がして」 ミチルが怖々と目を上げると、ほづみはミチルの硬い爪先を丹念に擦って滑らかにした。 「そんなことないって。ほら、もうちょっとで仕上がるから」 仕上げの細かいヤスリで擦ってから、はい出来上がり、とほづみに手を解放され、ミチルは指先を見つめた。憎らしかった爪が丸くなり、刃物じみた鋭さも取れて鈍角になっている。ほづみは、爪ヤスリをミチルに渡した。 「じゃ、次からは自分でやってみてね。やり方は今の通りだから」 「人間って凄い道具を使うんですね」 「こんなのは大したことないって。もっと凄いのがあるけど、それはまた今度ね。一度じゃ覚えきれないし」 ほづみはミチルの藍色の長い髪にヘアブラシを通していたが、爪ヤスリを凝視するミチルの横顔を覗き込んだ。 「だーけど、微笑ましいったらないわねー。綺麗にしたいから教えてくれ、だなんて」 「何もしないままでいるのは、なんだか広海に悪い気がして」 「解るわー、その気持ち」 ほづみはミチルの長い髪を一掴みにしてまとめると、くるくると捻ってまとめてからコンコルドで留めた。 「ただ着飾るのも楽しいけど、見せる相手がいると張り合いが出るもんだしね」 「ほづみさんの相手って、確か、茜の友達の」 あの調子の良いトンボの、とミチルが付け加えると、ほづみは明るく笑った。 「そうそう、アレよ、アレ。ちょいと頭は軽いけど本当に馬鹿ってわけじゃないし、結構良い奴だから、ミッチーも気が向いたら付き合ってあげてね。もちろん、優先順位は広海君が上だろうけど」 「考えておきます。それと、結局、ミッチーで決定なんですか?」 「呼びやすいに越したことはないし、その方が親しみがあっていいじゃない」 ほづみはミチルの髪からコンコルドを外し、お団子にしてから太いヘアピンを差し込んで固定した。 「こんなんでどうかしら」 ほづみはミチルの後頭部に鏡を翳し、ミチルに手鏡を手渡した。ミチルは合わせ鏡に映った自分の髪型を見、まじまじと眺めてから、ほづみに振り返った。 「あなたは魔法使いですか」 「まさか。こんなこと出来る人間なんていくらでもいるって」 ほづみはシュシュを広げ、お団子の根本に柔らかく填めた。 「この道具は使い古しだし、処分するよりいいからミッチーに譲るわ。練習しないと出来るものも出来ないし」 「そんなのって」 いいんですか、と言いかけたミチルに、ほづみはにんまりした。 「綺麗な歌を聴かせてくれた御礼よ。人魚の歌なんて、そう滅多に聞けるもんじゃないでしょ?」 「ありがとうございます、ほづみさん」 ミチルが頭を下げると、ほづみは妹を見るような眼差しで目を細めた。 「これからも色々とあるだろうけど、頑張りなよ。私や茜ちゃんや祐介君は逆の立場だけど、苦労は変わらないから」 「はい!」 ミチルは顔を上げ、頷いた。 「私さぁ、彼氏にトンボを選ぶなんてこれっぽっちも考えたことがなかったんだよね」 ほづみはミチルの前髪を分けて整えてやりながら、穏やかに述べた。 「世の中、そこら中に変なのが生きているけど、相手にするはずがないって思っていたのよね。偏見があったわけじゃないけど、縁がなかったのよ。シオの前に付き合ったのは全部人間だったし、友達も人間ばっかりで、人外と付き合う機会なんてなかったんだわ。でも、いざ付き合ってみると、ただの人間よりも何十倍も面白いんだわ、これが。人生を損してた気がするわ」 「広海もそう思ってくれているんでしょうか」 「そうかもしれないけど、まあ、人それぞれだからね」 それはそれとして、とほづみは声を潜めてミチルに顔を寄せた。 「今度からはもうちょっと大人しく励んでね? でないと、色々と気まずいから」 「え、あ、あっ!?」 間を置いてその意味に気付いたミチルが固まると、ほづみは身を引いた。 「とにかく壁が薄いのよ、ここ。私らも他人事じゃないけど」 「広海にも、そう言っておきます…」 赤面しすぎて茹だったミチルは俯き、ビニールプールに映る自分と向き合った。髪を上げたのは初めてで、普段は髪に隠れている両側頭部のヒレの根本や首筋も露わになっていて、ちょっと恥ずかしかったが、広海に見てもらいたくなった。ミチルはほづみから慰めとも冷やかしとも付かない言葉を掛けられ、受け答えながら、少しだけだが自信が持てるようになった。華やかなラインストーンが付いたコンコルドは、広海と主従の契約を交わしたために十五歳の成人の儀式をしないままだったミチルに与えられた、成人の証のように思えた。 隣家の庭に咲く散り際の桜が、また一枚、花びらを落とした。 二度目の釣りも大漁だった。 広海は桟橋から釣り糸を垂らしつつ、適当に見繕ってきた昼食を摂っていた。桟橋に腰掛けているミチルは、自分で捕まえてきた生魚に喰らい付いている。骨の一本もヒレの一枚も残さずに食べるので、無駄がない。大型連休を終えた次の週末だからか、釣り人はまばらだった。それもまた、釣果が冴えている理由なのだろう。 ミチルの後頭部には人魚の遊泳速度で泳いでも崩れないほど見事に丸められたお団子の髪が載っていて、水着に合わせたヘアピンが刺さっている。もちろん、海水でも錆びないように魔法で処理済みだ。一線を越えてからすぐ、103号室の住人である稲田ほづみから髪の結い方を教わったミチルは、髪を上げるようになった。充分似合っているし、美しく豊かな髪が汚れないで済むのでいいことだと思うのだが、その理由が解らなかった。 「ねえ、ミチル」 広海はペットボトルのお茶で喉を潤してから、手前に座るミチルに問い掛けた。 「なんで、髪の毛いじるようになったの?」 「これだけ伸びたのに切るのは勿体ないでしょ」 「そりゃ、まあ。でも、それだけじゃないような気がするんだけど」 「だったら、当ててみたら?」 振り向いたミチルは、血に汚れて紅を差したような唇を舌先で舐めた。その勝ち気な表情と仕草に、広海はぎくりとした。それ以上見てしまったら妙な気持ちになりそうなので、目を逸らしながら広海は懸命に考えた。たっぷり間を置いてから、やっと感付いた。人魚姫の童話に登場する人魚姫の姉達は、髪を切って魔女に渡し、王子を殺す短剣を手に入れた。それは、姉達が己の純潔を捨ててまでも人魚姫に現実を知らしめる暗喩だとされているが、現実の人魚族でもそれほど遠い意味ではないと大学の図書館で読んだ研究書に書いてあった。 「髪が短い人魚は既婚だ、ってやつ?」 広海はそう言ってから、がたっと折り畳み椅子を揺らした。 「え、ええ!?」 「意味が解ったんなら、責任取ってよね。どうせ、私は海には戻らないつもりだし」 「切ってないってことは、ああつまりそうか、ちゃんと結婚したら髪を切るってこと?」 「そうに決まってんでしょ」 「ちょっと待って、うん、ちょっとだけ待ってね」 広海はミチルの潔さに少しだけ臆したが、気を取り直した途端、何かが弾けた。 「ああもう好きだ大好きだぁああああっ!」 「ちょっ…!」 ミチルは目を剥いたが、広海に飛び掛かられて桟橋から海に落下した。どばぁん、と荒々しい水柱が上がり、広海が垂らしていた釣り糸は吹き飛んで大量の水飛沫が散った。細かな泡に包まれながら浮かび上がったミチルを、広海は力一杯抱き締めてきた。 「馬鹿」 ミチルが照れてそっぽを向くと、広海はフロートジャケットのおかげで浮きながら苦笑した。 「あー、そうかも…。帰りのこと、考えてなかった」 「でも、言ったからね! ちゃんと言ったからね! だから、責任取らなきゃ許さないんだから!」 「はいはい」 広海は頑なに顔を見せようとしない彼女の腰と肩に手を回し、笑った。 「僕なんかで良かったら、いくらでも」 海の中にも、陸の上にも、王子様なんていやしない。いるとすれば、何があろうとも傍にいてくれる相手だけだ。その相手を見つけることは出来ても、結ばれることはそう簡単ではない。だから、童話の住人となった人魚姫は海に身を投げて泡に戻ってしまった。だが、世界は変わり、海と陸の隔たりは薄くなりつつある。広海とミチルはその狭間で揺らぎ、迷い、悩んだが、嵐が過ぎてしまえば凪いだ海が待っているものだ。 そして、宝箱のような結末も。 ←・↑ 名前 コメント すべてのコメントを見る タグ …
https://w.atwiki.jp/jingaimura/pages/184.html
人外正義の会アジト 作者:シンセカ 所在:3番地・地下通路 シンセカの家であり、人外正義の会のアジト。普段はシンセカとアクマ、侍ピーターが住んでいるが、時々人外正義の会の会員を集めて集会を開く。
https://w.atwiki.jp/monsters/pages/246.html
ヌルいですが流血描写があるので、苦手な方はご注意。 人魚と魔術師見習い 1 859 ◆93FwBoL6s.様 期待が膨らみすぎたのかもしれない。 不動産屋からもらったコピー用紙の地図を頼りにアパートに辿り着いた途端、弾みすぎて爆ぜてしまいそうだった心が一気に萎んだ。不動産屋の事前の説明でも解っていたことだし、自分でもそれを納得した上でこのアパートを選んだのだが、いざ現物を目の当たりにすると鋭気が削げる。道中の書店で購入してきた大学の教科書が詰まった重たいバッグを背負い直し、岩波広海は鼻からずり落ち掛けたメガネを上げた。だが、元より贅沢は言えない身の上だ。生活費のある程度はこれから始めるアルバイトの給料で補うつもりではあるが、それが溜まるまでは親からの仕送りを当てにしている。大学受験だけでもかなりの負担を掛けてしまったのに、これ以上負担を掛けてしまうのは子供心に心苦しい。こんなことなら勉強しながらバイトしておくべきだったかな、と今更ながら後悔してしまった。 広海が大学一年生として新生活を始めるアパートもえぎのは、世間に胸を張って自慢出来るほど見事な安普請だった。妙な言い回しだが、そうとしか思えない。錆の浮いたトタン屋根、薄い板の塀、風雨に曝されて色褪せた木造二階建て、乱暴に昇ったら抜け落ちてしまいそうな鉄製の階段。広海に割り当てられた部屋は102号室で、一階の真ん中だった。不動産屋からもらった鍵を取り出そうとショルダーバッグを探っていると、アパートの敷地内から声を掛けられた。 「あら?」 その声に顔を上げると、銀色の女性型全身鎧が箒を片手に立っていた。 「もしかして、新しく越してこられた方ですか?」 「え、あ、はい、そうです」 取り出した鍵を握り締め、広海は生返事をしてしまった。大学に行く前から本物の魔法の産物を目の当たりにしたことで、訳もなく興奮して胸が高鳴った。広海が受験した大学は国立魔術大学であり、学科も将来的には職業魔術師になれる学科を選択していた。物質文明が発達した現代社会においては魔術師はそれほど重要な職業ではなく、画家や作家などとほぼ同等の認識である。だが、その奥深さたるや計り知れないものがある。リビングメイルなど正にそうだ。過去の戦乱で失われた技術を惜しみなく使われた、人間の記憶と意識を封じ込めた金属塊。まさか、本物に出会えるとは思わなかった。 「私、202号室に住まわせて頂いているアビゲイルと申します。よろしくお願いします」 リビングメイル、アビゲイルに丁寧に礼をされ、広海も慌てて名乗った。 「えっと、僕は岩波広海といいます、102号室に越してきました。こちらこそ、よろしくお願いします」 「そう、ヒロミさんね。解らないことや困ったことがあったら、なんでも仰ってね。お役に立てるかもしれませんから」 柔らかな仕草でマスクを押さえたアビゲイルは、広海が知るリビングメイルからは懸け離れていた。リビングメイルと言えば、全身鎧であることとバラバラにされても死なないという利点のために戦闘用に造られ、素体となる人間の魂も兵士や騎士といった闘志に溢れた者ばかりなので、素体の魂が女性であるだけでも充分すぎるほど珍しいことだった。魔術師を志す者としてはそれが少しどころかかなり引っ掛かったが、彼女の身の上を探るのは一人前の魔術師になってからでも遅すぎないだろう、と思い、広海はアビゲイルの前を過ぎ、自室のドアの古びた錠前に鍵を差し込んで回した。 玄関に入ると、引っ越し業者によって運び込まれていた荷物が待ち受けていた。履き古したスニーカーを脱ぎ、板張りの廊下を通って八畳間の居間に入り、隣接した六畳間の襖を開き、狭い庭に面した掃き出し窓を開いた。地元よりも心なしか乾いた空気が滑り込み、埃っぽく湿った室内を通り抜けた。教科書の詰まったバッグを下ろしてから、広海はまず最初に浴室に向かった。スイッチを押して明かりを付けると、タイルの壁に囲まれた若干手狭だが綺麗に清掃された浴槽が現れた。蛇口を捻ってしばらく水を流してから、栓を入れて溜め始めた。浴槽の前に立った広海は深呼吸してから、一息に叫んだ。 「出でよ、血の盟約の元に!」 浴槽に三分の一ほど溜まった冷水がうねりながら立ち上がると、爆ぜ、大量の水飛沫を散らした。冷水をくまなく浴びた広海の前に、艶やかな青いウロコに覆われた下半身をくねらせながら人魚が落下してきた。彼女はぬるりと下半身を曲げて浴槽に収まると、ウロコよりも若干濃い色合いの藍色の長い髪を払ってから、不愉快極まる顔で広海を見上げてきた。 「何なの、これ」 「ごめん。今し方到着したばかりで、荷解きが出来てないんだ。だから、ミチルが入るビニールプールもまだ…」 「言い訳はいらない。この私を人間の寸法に合わせた器に落とした時点で、あんたは私の機嫌を大いに損ねたわ。だから、顔も見たくないし声も聞きたくないわ」 若い女の人魚、ミチルは浴槽の縁に肘を掛けて顔を背けた。眉を吊り上げていても、唇を歪めていても、その美しさは欠片も損なわれていなかった。水位が上昇しつつある水面に広がる髪は海草のようにゆらゆらと漂い、ウロコは一枚一枚が宝石から切り出されたかのように華やかで、胸の大きさと腰の細さは反比例していて、上半身は人間であれば誰しもが美しいと思うであろう外見で、下半身は南洋の海に生息している魚にも似た青さだった。人間で言うところの肋骨に当たる部分が水面に没すると、柔らかな乳房の下にあるエラが開閉して水から酸素を吸収し始めた。人間のように肺を使った呼吸も出来るのだが、そこはやはり魚類なので、水を通じて酸素を取り込む方が効率的なのだ。 「ほら、早くしなさいよ」 ミチルに急かされ、広海は渋々浴室を出た。風呂を使うためにはビニールプールを早く出さないといけないが、その前に荷物で一杯の部屋の片付けが終わるかどうか解らなかった。それが終わらなければ、近所に銭湯があるかどうかをアビゲイル銭湯の場所を聞く必要がある。広海の地元とは違ってこの近辺には海がないし、広海はミチルを大気中でも活動させられるような魔法を使えるほどの腕もなければ魔力もない。だから、素直に風呂を明け渡すしかなく、前々から覚悟していたことではあったが、それでもなんだか悔しくなった。それでなくても、ミチルは主であるはずの広海を使役してくる。本当なら、広海がミチルを使役する立場にいるのだが、彼女の女王様然とした態度と広海の生来の気の弱さが原因でいいように扱われている。段ボール箱を手当たり次第に開けてビニールプールを入れた箱を探しながら、広海は浴室を窺ったが、ミチルは静かだった。 上手く御機嫌取りが出来ればいいのだが。 広海とミチルが出会ったのは、広海が中学生の頃だった。 海に面した田舎の港町で生まれ育った広海は、メガネを掛けた貧弱な体格の少年に相応しく、運動部には入らずに文芸部とは名ばかりの帰宅部に所属していた。学校の図書室に入り浸っては手当たり次第に本を読むうちに、おのずと魔術に魅せられ、自分も魔法が使えるような気になった。言ってしまえば、いわゆる中二病である。だが、本の中では簡単そうな魔法もいざ自分で使うとなると別物で、なんとなく読めた気でいた魔法文字もろくに読めないことが判明したので、広海は本来の学業はそっちのけで魔術に傾倒した。そのおかげで現代魔術の基礎読解力は身に付いたが、大学受験に不可欠な基礎学力がガタ落ちしてしまい、受験勉強を始めてから苦労したのは言うまでもない。 完全な魔法とは言い難いが、魔法のようなものが使えるようになった広海は、今日も今日とて人目に付かない入り江に向かった。図書室の蔵書だけでは飽き足らずに小遣いを貯めて買った初級魔術書を片手に、浜辺を歩き、岩場を乗り越え、港からも街からも目に付かない小さな入り江に辿り着いたが、その日は珍しく先客がいた。 浅瀬から迫り上がってきた薄い波が寄せては返す狭い砂浜に、裸身の少女が倒れ伏していた。が、すぐにそれが人間ではないことに気付いた。砂浜から下に没している下半身は青いウロコに覆われた魚のもので、尾ビレの端が千切れて裂けたウロコから血が滲んで海水に溶けていた。広海はしばらく彼女を凝視していたが、人魚は砂まみれの髪を引き摺って上体を持ち上げた。 「ぼんやり見てるぐらいなら、助けたらどう」 「…え、僕?」 「他に誰がいると思うの」 乱れ髪の隙間から広海を見据えた人魚の視線は、苛立ちを通り越して怒りが漲っていた。広海は逆らえるわけもなく、岩場を下りて砂浜に来たはいいが、何をしたらいいのかが解らなかった。人間相手ならともかく、相手が人魚では手当のしようがない。魔法が使えればなんとかなるかもしれないが、生憎、広海は初歩の初歩につま先を掛けた程度でしかない。かといって、この場から逃げるのは無責任だ。広海は宝物の魔術書を岩場の高い位置に置いてから、恐る恐る人魚に近付いた。 傷を負った人魚は、広海とあまり歳が離れていないようだった。顔形も幼く、上半身も小柄で下半身も短い。人魚は人間とは老化速度に差があるので、さすがに同い年ではないだろうが。人魚は両肘を砂浜に突き立てて匍匐し、出血している下半身を陸地に引き上げた。顔色は青ざめていて、痛みと苛立ちで凶相と化していたが、彼女は間違いなく美少女だった。その容姿は獲物である人間を捕食しやすくするために美しく発達したものだ、と書かれた魔術書もあったが、広海は警戒心よりも先に彼女に見入ってしまった。息を荒げすぎて歪んだ唇の隙間から見える尖った歯も、薄い乳房の下で開閉するエラすらも魅力的だった。 「君、どうしてケガしたの」 好奇心と興奮に煽られた広海が話し掛けると、人魚は裂けた尾ビレで海面を荒々しく叩いた。 「船よ、船! 私が海底で昼寝してたら近付いてきやがって、船底と梶で擦りやがったのよ! 岩の上で寝てたもんだから、その岩の表面でウロコも肉も切っちゃって、もう最悪! 人間なんて滅べばいい!」 「それは…災難だったね」 肉食魚のような歯を剥いて喚く人魚に広海はちょっと臆したが、尋ねた。 「ところで、どの辺で寝ていたの?」 「あっち」 と、人魚が示したのは、港の入り口に程近い海域だった。頻繁に漁船が出入りする場所で、今もまた新たな漁船が漁を終えて入港するところだった。自業自得じゃないか、と広海は言いかけたが、人魚の鋭利な歯に噛まれたら大変なので黙っておいた。人魚は不愉快げにまた海面を叩いたので、広海は更に近付いた。人魚の傷口から滴る血液はやはり魚のそれで、人間の血液とは匂いも違っていて、港町に住む子供にとっては慣れ親しんだ遊び、釣りで捕獲した魚を捌く時に感じた匂いと酷似していた。 「傷が痛むなら、陸に上がらない方が」 広海は人魚を制するが、苦痛に顔を歪めた人魚はずりずりと這いずってきた。 「手っ取り早く治すには、これが一番なのよ」 「何が?」 「あんたの血と肉、寄越しなさい」 人魚は唇の端を吊り上げ、尖った歯の隙間から薄い舌を覗かせた。広海は青ざめ、後退った。 「どうしてそうなるんだよ! 人魚って、そんな生き物だったっけ!?」 「私達は元々肉食よ。陸の生き物なんて喰っても大して旨くはないけど、憂さ晴らしには丁度良いわ」 「ストレス解消に僕を捕食しないでくれよ!」 「あんた達は、充分すぎるほど海の連中を横取りしてんじゃない。人間の一匹ぐらい、どうってことないわ」 「ある、ある、僕にはすっごいどうってことある!」 広海は今し方まで人魚に感じていた好奇心や淡い憧れなど一瞬で吹っ飛び、背中に嫌な汗を掻いた。考えてみなくても、人魚は人間とは別の生き物だ。一部が似た外見で、言葉が通じるからといって、全く同じというわけでもない。人魚は本気らしく、水色の瞳を動かして広海の体を睨め回している。その目付きは冷ややかで、怒りに歪んでいた顔付きも捕食対象を捕らえようとする表情に変わっていた。広海が大型の魚に目を付けられた小魚の心境を嫌と言うほど味わっていると、人魚の視線が上がり、岩の上に置いた魔術書で視線が止まった。 「あんた、魔法使えるの?」 「いや全然」 広海は、謙遜ではなく保身のために言い切った。下手に使えると言ってしまえば、その魔法でどうにかしろと言われてしまうかもしれない。だが、本当に何も出来ないのだ。魔法にすら至らない魔力の揺らぎ程度しか起こせない身の上では、人魚の傷など治せるわけもない。人魚は値踏みをするように広海を眺めていたが、砂の付いた頬を水掻きが付いた手の甲で拭ってから上半身を起こした。 「あんたの魔力なんて当てにするわけないじゃない。あんたにどうにかしてもらおうなんて、元から考えちゃいないわ」 傷口に砂がめり込むのも構わずに這いずってきた人魚は、更に後退りかけた広海の足首を掴んだ。 「私を、陸に上がらせなさい」 「でも、もう陸に…」 「そういう意味じゃない。私は陸に上がりたいの、上がらなきゃ、いけないの」 冷たく濡れた手で広海の足首を握る人魚の握力は骨が軋むほど強く、広海は痛みに呻いた。 「な、なんで?」 「そんなこと、あんたに説明する義理があると思う?」 人魚は広海の脛を掴み、股に爪を立て、腰を押さえ、ついに肩に手が届くほどの高さまで這い上がってきた。目を剥いて唇を歪めて歯を覗かせた恐ろしい形相に睨み付けられながらも、藍色の髪の間から立ち上る潮の香りを吸い込み、広海はよろけた。人魚に体重を掛けられたせいだったのだが、精神的な原因も大きかった。上半身は人間ではあるが魚らしさの方が強い彼女に、参ってしまったからだ。相手はただの魚だ、人みたいだけど魚だ、と思おうとしても、一度認識してしまった感覚はそう簡単に拭えなかった。広海は人魚としばらく見つめ合う格好になったが、おずおずとその肩に手を触れた。 「解った。でも、僕はどうしたら」 「私をあんたの使い魔にしなさい。但し、私があんたを利用するの。私はあんたなんかに使役されたりしないわ、あんたを利用して陸に這い上がりたいだけ」 「…解った」 同じ言葉を繰り返した広海は、人魚の傷口から粘り気の少なめな血を掬い取った。使い魔とその主の契約方法には様々な魔法があり、魔法陣を組んだり長々と呪詛を与える方法もあるが、手っ取り早いのはお互いの血を与え合うことだった。単純ではあるが、単純すぎて弊害も大きい。契約を解除しようとしたら、自分の体の中に入った相手の血と相手の体の中に入った自分の血を完全に排除しなければならないのだが、それがまた過酷なのだ。魔法を使うとはいえ、自分の内に流れる血を一滴残らず洗って異物を取り除くのだから、心身の負担は並大抵のものではない。広海はそれを考えたが、野生らしい凶暴さとを隠そうともせずに迫る人魚を見下ろすと、恐怖よりも芽生えたばかりの恋心が勝った。広海は指に付いた人魚の血を嚥下し、その手を人魚に差し出した。人魚は広海の手を躊躇いもなく囓り、皮膚を破った鋭い歯がめり込み、激痛が走った。人魚の顎と首を伝って滴った赤黒い血液が、彼女の膨らみかけの乳房と砂浜を汚し、人魚の血液とはまた違った生臭みが立ち上った。 あまりの痛みの声も上げられなかった広海が脂汗をだらだら流していると、人魚は唐突に広海の手から歯を引っこ抜き、舌でぬるりと汚れた口元を舐め取った。広海が手持ちのハンカチで傷口を押さえながら人魚を窺うと、人魚は顔を強張らせていた。人の血肉を喰いたい、と言っていた割には表情が暗かった。だが、広海はそんなことを気にする余裕を失い、自分の血を見過ぎて貧血を起こして砂浜に倒れ、気を失ってしまった。 実に情けない契約だった。 右手に残る傷跡に触れ、広海は荷物を整理する手を止めた。 あれから五年も過ぎたが、ミチルは陸に上がりがった理由はおろか自分のことを話してくれない。乱暴な契約をした翌日、右手に包帯を厚く巻き付けた広海はあの入り江で彼女に会ったが、教えてくれたのは彼女自身の名だけだった。他はさっぱりで、聞き出そうとすると海に引き摺り込まれそうになった。何も話してくれない彼女に苛立ちもしたが、それまでは女っ気がまるでなかった広海はミチルと接するだけで充分だと思うようになった。主従関係がイコールで恋愛関係になるわけではないし、広海がその気でもミチルは愛想すらないが、主従関係に縛られている限りは傍にいられる。きっと片思いで終わるだろうが、それならそれでいい。ミチルには広海は単なる足掛かりに過ぎないだろうが、それすらも嬉しいと思えるのだから重症だ。 浴槽から出たミチルは、居間のほとんどを占めているビニールプールに身を沈めていた。外に出しては両隣の部屋の邪魔になってしまうし、何よりミチルが文句を言う。エラが詰まるからと上半身を隠す服を着ようとしないくせに、他人に素肌を見られるのは嫌がるのだ。だから、ビニールプールは居間に固定することになるだろう。一応、畳の上にはビニールシートを敷いてあるが、たまには剥がして干さないとカビが生えるのは間違いない。問題はその時だな、と思いつつ、広海はぼんやりとテレビを眺めるミチルの横顔を見やった。昨日まで住んでいた地元とは放送局も周波数も違うのに、片付け追われてろくにチューニングしていないせいで画面はノイズまみれだが、ミチルは気にしていないようだった。というより、やることがないから目を向けているだけだった。 「ミチル」 広海が声を掛けるが、ミチルは振り向きもしなかった。返事代わりに、尾ビレの先で水面を叩いた。 「一通り片付けが終わったら、ここに住んでる人達に挨拶しに行くよ」 「だから?」 ようやく返事をしたが、ミチルの態度は相変わらず素っ気なかった。 「行くなら勝手に行ってくればいいじゃない。私にはどうでもいいことだわ」 「うん、そうだね」 「でも、何か食べるものだけは出しておいて」 「解ったよ」 広海は頷き、腰を上げた。ミチルは一度も振り返ることはなく、広海が部屋を出ていこうとも反応しなかった。それもまた、いつものことだった。玄関から出て鍵を掛け、まずは隣室からだと振り返ると、アパートを訪ねてきたらしい黒衣の少女とその背後に控える金色の全身鎧と目が合った。少女の顔にはどこかで見覚えがあり、広海が誰だったかと思い出そうとしていると、黒衣の少女は広海が思い出しきる前に近寄ってきた。 「新しく引っ越してこられた方ですか?」 「ああ、はい、そうです」 広海は当たり障りのない返事をしてから、黒衣の少女の正体を思い出し、自室のドアに背中をぶつけた。 「そうだ、マーリン綾繁の!」 「娘ですわ」 黒のシンプルなワンピースを着た少女、綾繁真夜が微笑むと、その背後の全身鎧、アーサーが彼女に問うた。 「真夜、知り合いか」 「いいえ。でも、私の顔を御存知なら、それはきっとこちら側の方ね。私もたまに魔術雑誌に魔法陣の解析式を投稿しているし、本当にたまにだけどちょっとした文章を載せてもらっているし、写真も載ったことはあるもの。でも、その呼び方は恥ずかしいわね。お父さんってば、いつまで手品師みたいな芸名を使うつもりかしら。大魔術師にあやかりたいのは解るけど、センスが古いのよ。お母さんもお母さんで、お父さんがマーリンなら自分は湖の乙女だーとかなんとか言っちゃって、ニミュエ・レイクだとか…」 真夜が複雑な表情になると、アーサーがまた問うた。 「では、御両親の本名は何なのだ?」 「綾繁和夫と綾繁のり子よ」 「純和風だな」 「だから、余計に恥ずかしいのよ」 真夜は両親のことを愚痴りそうになったが、広海の存在を思い出して仕切り直した。 「それはそれとして、私、ここの住人の友達なんです。綾繁真夜です、よろしくお願いします」 「我が名は聖騎士アーサー。真夜の盾であり剣であり、聖剣エクスカリバーに選ばれし者だ」 アーサーは真夜に続いて名乗り、右手を差し出した。広海は手を差し伸べ、アーサーと握手を交わした。 「岩波広海です。国立魔術大学に進学したんで上京してきたんです」 「それはおめでとうございます。頑張って下さいね」 それでは、と真夜は一礼し、アーサーを引き連れて二階に向かった。二人を見送ってから、広海は今度はアーサーの名に驚くも、首を捻った。アーサーとエクスカリバーといえば、思い出されるのはアーサー・ペンドラゴンだけである。歴史が正しければ、アーサー・ペンドラゴンは中世時代に魔剣との戦いで自らの命と引き替えに魔剣とその操り手を封印し、それ以降はもちろん生き返ってもいなければリビングメイルと化したとのニュースもない。しかし、アーサーの腰に下がっていたのは間違いなく聖剣だ。文献や絵画に記されている聖剣と全く同じ形状だ。引っ掛かりが好奇心に変わった広海は、階段を昇り終えたアーサーに声を掛けた。 「もしかして、あなたはペンドラゴン卿ですか?」 「それは旧き名だ。今の私に必要なのは真夜を守る力だけであり、時と共に流れ去った過去ではない」 アーサーは二階から少し上半身を出し、広海を見下ろした。 「若き学徒よ。我らが時代は紙の上に残るだけとなり、剣と魔法からは世の理を作る力が失われて久しい。故に、私は聖騎士として果たすべき使命を終え、真夜の恋人として現代に生きると神に誓ったのだ。そして、エクスカリバーにもな」 「色々とお詳しいのは解りましたけど、ね」 アーサーの隣から顔を出した真夜は、明らかに困り顔だった。言い過ぎた、と広海は後悔して謝った。 「すみません」 「解れば良いのだ」 アーサーは軽く頷き、真夜も身を引き、201号室のアラームを押した。程なくして快活な少女の声が返ってきて、二人はその部屋に上がっていった。これじゃちょっと挨拶に行きづらいな、と思ったが、今更自室に引き返してもミチルから刺々しく言われそうなので、広海は近所を出歩くことにした。時間潰しと商店の探索も兼ねている。自室の鍵と携帯電話と財布がポケットに入っていることを確認してから、広海はアパートもえぎのを後にした。ミチルの様子が気になったが、彼女なら一人でも平気だろう。 細々と構い過ぎると、もっと機嫌を損ねてしまうだろうから。 狭苦しく、酸素の薄い、淡水の海。 エラから吸い込んだ水を吐き出し、ビニールプールの中に戻した。滑らかなウロコに覆われた下半身を円形の内壁に添って曲げ、尾ビレを意味もなく揺らした。潮の匂いが一切しない空気に慣れるために肺を使って呼吸してみるが、酸素が思うように吸収出来なかった。板張りの天井は薄暗く、二階からは騒ぎ立てる少女達の声が聞こえてくる。耳障りではあるが、悪いものではない。むしろ、羨ましかった。思いのままに話せることは、充分すぎるほど素晴らしい。 ミチルは長い髪をビニールシートの外に垂らしながら、指の間に付いた水掻きを噛んだ。皮膚が薄いが痛覚はちゃんとあり、鋭利な歯が刺さりかけたが引っ込めてしまった。水掻きを一つ噛み千切ったところで、何が変わるわけでもないと解っている。忌まわしい下半身を切り落として二本の足にすげ替え、エラを塞ぎ、歯を削り、髪を切らなければ、人間に近付くことも出来ない。 人間に思いを告げれば、人魚は泡と化して死ぬ。海中で同族達と暮らしていた頃、大人達から何度も聞かされた話だった。危険な陸に上がるなとの注意喚起であり、人魚族の繁栄の妨げとなる異種間婚姻を防ぐための作り話だとばかり思っていた。だが、ある日、幼馴染みの人魚の少女が泡になって死んだ。以前から陸への憧れていた彼女は、人魚や魚人から聞きかじった陸の話を目を輝かせながら話してくれたものだった。その中で特に熱が入るのは、海辺で見つけた人間の男性のことだった。だから、幼馴染みが消えた時、ミチルは彼女が無事に陸に上がれたのだと思い、口にはしなかったが心の内では喜んでいた。もしかしたら、陸に上がった幼馴染みは憧れていた人間の男性と素敵な恋に落ちているかもしれない、とも。 それから数日後、幼馴染みが死んだとの報せがあった。彼女が死んだ海域には数枚のウロコが散らばり、泡が漂っていたそうだ。ウロコを見つけた人魚は嘘を吐くような性格ではなかったし、泡を目にした魚人族や魚類もいた。だから、幼馴染みは本当に泡になって消えてしまったのだろう。ミチルは幼馴染みの死に方を信じたくはなかったが、大人達の話が嘘ではないのだと痛感し、陸には上がるまいと胸に誓った。それなのに、成長すると陸の魅力に抗えなくなり、大人達の目を盗んでは浅瀬を目指して泳ぎ、夜に隠れて人界を望んだ。そんなことを繰り返していると、いつも決まって同じ入り江にやってくる少年が目に付いた。歳も近かったし、下手くそな魔法を使おうとする姿が微笑ましく思え、眺めてしまった。そして、言葉を交わしたい、近付きたい、と思うようになったが、幼馴染みの死に様が過ぎって見つめるだけの日々が続いた。少年がいずれ大人になり、旅立つ日には終わるはずだ、と自分に何度となく言い訳しながら陸に近付いた。気付いた頃には、ミチルは少年に心を奪われていた。 そして、広海と接触したあの日、ミチルは港に近付きすぎて漁船に轢かれた。広海が来るよりも先に行こう、と思うあまりに気が急いてしまったせいだった。幸か不幸か広海が訪れる入り江に打ち上げられたが、泡になりたくない一心で意地を張った挙げ句に強引な契約を交わした。使い魔となったことで傍にいることは出来るかもしれないが、広海には嫌われているだろう。使い魔がいれば魔術師としての箔が付くから、契約を継続してくれているだけだ。そうに違いない。 「広海」 彼の名を呟き、ミチルは顔を覆った。 「ごめんなさい」 せっかくの新生活に、文字通り水を差している。魔術大学に進学することは彼の悲願であり、この機会に独り立ちさせてやるべきだったのに、入り江で待つミチルに合格報告をしてくれた彼に連れて行けと頼んでしまった。海を離れた人魚を生かすのは容易なことではないと自分でも理解しているのに、離れてしまうのが耐えられなかった。束縛してしまいたかった。 けれど、後悔が怒濤のように襲い掛かる。好きで好きでたまらないのなら、離れておくのが彼のためだ。泡になるのが怖いからと、本心を隠すために天の邪鬼になる自分が嫌いだ。だが、泡になって死ぬのは嫌だ。どうせ死ぬのなら、陸で、広海の腕の中で果てたい。かつて味わった彼の血の味を思い起こし、ミチルは唇を舐めた。 塩素の効いた、人界の味がした。 → タグ … 人間♂ 人魚 和姦 !859◆93FwBoL6s. *人外アパート
https://w.atwiki.jp/touhoumtg/pages/319.html
メイドの先導/Maid Outrider メイドの先導/Maid Outrider(2)(R) クリーチャー - フェアリー・メイド メイドの先導が戦場に出たとき、あなたはあなたのライブラリーからメイド・カードを1枚探してもよい。そうした場合、それを公開してあなたの手札に加える。その後、あなたのライブラリーを切り直す。 2/1 参考 紅魔郷-アンコモン
https://w.atwiki.jp/kyougenshi/pages/95.html
突風「猿田彦の先導」 突風「猿田彦の先導」 緑 (3) スペルカード:射命丸 文 妖怪/天狗/鴉 2000 ■このスペルカードが場にある間、自分の他のスペルカードはパワー2000以下のスペルカードにブロックされない。 フレーバーテキスト 第一篇 『異変』 -アクシデント- 急いでください!こっちですよ! EX06 天翔写楽の瞳 無理も道理も通せば通る! 収録セット 第一篇 『異変』 -アクシデント- 84/120 EX06 天翔写楽の瞳 5/20 参考 射命丸 文
https://w.atwiki.jp/monsters/pages/241.html
人魚と魔術師見習い 4 859 ◆93FwBoL6s.様 円柱形のアクアリウムには、色鮮やかな魚が泳いでいた。 吹き抜けを貫くようにそびえ立ち、円柱形に造られた分厚いアクリル板の内には人工の水域が形成されていた。 両手に買い物の荷物を抱え、秋野茜はアクアリウムを見上げていた。ショッピングモールを行き交う人々は多いが、 足を止めて魚達を見上げる目は少なかった。ここが水族館なら別だろうが、買い物を目的に訪れる場所でじっくりと 魚を鑑賞しようとする人間は少ないだろう。一匹のピラルクがゆったりと泳ぐ様を眺めていると、後頭部を小突かれた。 「魚なんて見て面白いか?」 振り返ると、ヤンマが立っていた。その上両足には二人分のソフトクリームがあり、小突いてきたのは中右足だった。 「だって綺麗じゃない」 茜はストロベリーとチョコのミックスを受け取ると、アクアリウムの手前にあるベンチに腰掛けた。ヤンマも腰を下ろし、 長い腹部を垂らした。春物の服が詰まった紙袋を置いてから、ソフトクリームを舐めた茜は、ヤンマの複眼を見上げた。 「ね、ヤンマ」 「んだよ」 「新しく引っ越してきた人ってさ、人魚さんと住んでいるんだよね。大学一年生の魔法使いで」 「それぐらい、知らねぇわけがねぇだろ。それがどうした」 「だから、真夜ちゃんに人魚さんの話を聞いてみたら、童話の人魚姫ってある程度までが本当なんだってさ」 「王子と結婚しなきゃ泡になって消える、っつーやつか?」 「うん、そうらしいよ。てっきりおとぎ話だとばっかり思っていたけど、ちゃんと元ネタがあったんだね」 「人魚っつっても人間大の大きさの生物だろ? それを泡にするには、結構な量の強酸が必要じゃねぇのか?」 「やだそれ生々しい。ファンタジックな会話が一気に殺伐とした雰囲気になったんだけど」 「自分から言い出したんだろうが」 ソフトクリームを三口で食べ切り、顎を大きく開いてコーンを噛み砕いたヤンマは、長い下両足を組んだ。 「で、茜は何が言いたいんだ」 「えーと、なんだっけ」 茜は溶けかけたソフトクリームを舐め取ってから、話を続けた。 「ああ、そうそう。童話の中じゃ人魚姫は声と引き替えに足を手に入れて陸に上がってきたけど、現実には人魚は ほとんど陸に上がってこないんだって。そりゃ、生活習慣の違いもあるし、完全な水陸両用じゃないから人魚は陸じゃ 暮らしづらいのは違いないけど、魔法も科学も発達したから、多少制限はあっても陸上生活は可能なんだよね。現に、 ミッチーはちゃんと暮らしているし」 「ミッチー? って、ああ、そうか、ミチルだもんな。あの人魚の姉ちゃん」 「そう、だからミッチーね」 茜は混じり合ったクリームを舐め尽くしてふやけてきたコーンに到達すると、囓り取った。 「真夜ちゃんが言うには、ミッチーみたいな人魚はもっと増えるべきなんだって。その方が人魚族と陸上生物双方の 繁栄に繋がるし、魔法も科学も発達するから、ってことなんだけど、人魚族は考えが古いからー、だってさ。難しいね」 「どこの世界でも、そういうのは変わらねぇんだな」 ヤンマはかちかちと顎を小突き、遊泳するピラルクを複眼に映した。遠い昔、ヤンマの祖先である人型オニヤンマが 鬼として恐れられ敬われていたが、現代ではただの昆虫人間に成り下がったように、時代の推移には順応すべきだ。 守るべき部分はあるだろうが、変えるべき部分は変えなければならない。それが、生きるということではないだろうか。 不意に、円柱形の水槽が陰って魚よりも大きな影が飛び込んだ。軽やかに水を蹴って降りてきたのは、人魚だった。 ショッピングモールの社員証をビキニの水着の胸元に付けたポニーテールの人魚は、来客達に笑顔を振りまいてから、 魚達に餌を与えた。茜が彼女に手を振ると、人魚は気安く手を振り返してくれた。人魚は艶やかなウロコに覆われた 下半身を揺らして泳ぎ回ってから、澄んだ声で歌い始めた。 海の言葉で紡がれる、海の歌だった。 予定通り、釣りに行った。 実家から運び出した釣り道具を抱えて電車に乗り、海に向かった。引っ越してきたばかりで地理がよく解らないので、 私鉄の路線図だけでなく海岸沿いの地図も入手し、釣りが出来るポイントに当たりを付けて出発した。 電車から降りた広海は、陸続きの島に向かった。砂浜もあるが、島の裏手に回れば岩場もあるので、釣りをするには 絶好のポイントだ。これなら、持参した釣り道具だけでなんとかなりそうだ。問題は、釣り場に他人がいるかいないかだ。 広海は島の周囲を歩いて岩場に向かい、見渡すが、天気が良い割に釣り人は思ったよりも少なかった。となると、ここは それほど釣れないポイントなのかもしれない。それはそれで困るな、と思いつつ、広海は釣り道具を広げて支度してから、 海に狙いを定めてミチルを召喚した。魔法は格好がそれらしくなくても使えるが、完全な釣りの格好では何か妙だった。 広海が召喚術を放った地点の海面が噴き上がり、爆ぜると、花見の際にプレゼントした水着を着たミチルが降ってきた。 ミチルはするりと海中に飛び込んでから、滑らかに泳いで広海のいる岩場の下に近付いてきた。 「やあ」 広海が無難な挨拶をすると、ミチルは海水を含んだ髪を掻き上げた。 「温い海ね」 「まあ、春だしね。で、ここは釣れそうかな」 「さあ? この海にどんな魚がいるかなんて知らないし、あんたの腕が悪ければ一匹も引っ掛からないんじゃない?」 「まあねぇ…」 広海は否定出来ず、曖昧に答えた。実際、広海は大して釣りが上手いわけではない。 「僕が釣っている間は、その辺りで泳いでいなよ。捕まえられそうな魚がいたら」 「勝手に喰うわよ。陸のものばっかりで飽き飽きしてたところだし、あんたが釣るのを待っていたら日が暮れちゃう」 ミチルは尾ビレを広げながら転身し、飛び込んだ。波間に没した彼女の尾ビレはすぐに見えなくなり、影すらも岩場に 紛れて解らなくなった。きっと、深く潜ったのだろう。もう少し話したかったんだけどな、と残念がりながら、広海は岩場に 来る前に買ったゴカイを出し、釣り針に刺した。うねうねと動く虫を眺め、そういえばミチルはこれも食べるのだろうか、と 思った。きっと食べるだろうが、さすがにゴカイやアオイソメを食べる様を想像したくはない。野性味が溢れすぎている。 考えるんじゃなかった、と払拭してから、広海は振りかぶって餌を付けた釣り針を投げ込んだ。ちゃぽんと波間に小さな 飛沫を上げて波間に吸い込まれ、程なくして手応えがあったので引っ張ってみると、なぜかミチルが釣れた。その手には 今し方広海がゴカイを刺したばかりの釣り針があり、ミチルは困り顔だった。 「…何よ」 「もしかして、それ、食べたいの?」 広海がミチルの手中で蠢くゴカイを指すと、ミチルはむくれた。 「こんなにおいしいものを食べるなって言う方が無理に決まってる!」 「ああ、やっぱり食べるんだ、ゴカイ…」 「当たり前よ」 「じゃあ、一つ食べる?」 広海がパックの中から新鮮なゴカイを一匹つまみ出すと、ミチルは目線を彷徨わせたが釣り針は離さなかった。 「別に、そんなに欲しいわけじゃないし」 「僕のはともかくとして、他の人の餌を横取りされちゃ困るから」 「見損なわないでよ、そこまで恥知らずじゃないわ」 「じゃあ、僕のを食べなよ」 岩場から身を乗り出した広海がゴカイを差し出すと、岩場に手を付いて昇ってきたミチルは口を開けた。 「仕方ないわね」 欲しがったのは君の方じゃないの、と、広海は言いかけたが、尖った歯の並ぶ口に活きのいいゴカイを落とした。 ミチルはゴカイに食らい付くと、ずるりと啜って咀嚼し、飲み込んだ。 「まあまあね」 ミチルはまた岩場から海中に飛び込み、姿を消した。広海はやれやれと思ったが、彼女の魚らしさになんだか笑いが 込み上がった。ゴカイを食べたいのなら、素直に言えばいいのに。ミチルなりに広海に甘えてきてくれているのだろうか。 だとしたら、この前のことは気にしてないのかもしれない。広海も自分の蛮行を忘れようと努めているし、ミチルの方も あの出来事については何が言ってくる気配はない。言いたくないほど嫌なのか、蒸し返したくないほど興味がないのか。 花見と言うには物足りないがそれなりに充実した散歩の後から、ミチルの態度が変わったような気がしてならない。 肌を隠すための水着をプレゼントしたからか、ほんの少しだが付き合いが良くなっている。以前なら受け流されていた 会話も続くようになったし、滅多なことがない限りは一緒に食卓を囲んでいる。ミチルに指を舐められたせいで欲情した 挙げ句に押し倒し、無理矢理キスをしたのは、なかったことになっているのかもしれない。思い出せば思い出すほど 後悔に襲われるが、ミチルがなかったことにしているのなら、それに越したことはない。広海は少しだけ手応えのあった 釣り竿を引き、リールを巻いたが、釣り針からは餌が外れていた。最初はこんなものだよな、と妥協し、広海は次の餌を 付けて海中に投げ込んだ。それからしばらく待ったが、まるで引きがなく、やはりこの岩場は外れだったのかもしれない。 潮風に吹かれていると、緊張しきりだった気持ちが緩んできた。慣れない大学生活や都会での生活で張り詰めていた 神経が解けていくのが感じられ、肩の力が抜けてきた。ミチルも広々とした海で泳ぐのが気持ち良いらしく、釣り人達の 邪魔にならないような場所で泳ぎ回っている。これがデートかどうかは解らないが、少なくとも自分とミチルの気晴らしに なるようだ。これからも釣りに来よう、次はもっといいポイントを探そう、と弛緩した頭の片隅で考えていると、広海の竿の 先端が曲がってウキが沈んでいた。竿を持ち上げてリールを巻き取ると、銀色のウロコを輝かせた魚が釣り上がった。 小振りながらも活きのいいアジだった。 釣果は上々だった。 だが、上々すぎて広海が持参したクーラーボックスはひどく重たくなった。ミチルをリヤカーに乗せて運ぶ時にも使った 軽量化の魔法を使わなければ、肩が砕けていただろう。今日、釣れたのは主にアジやサバで、大きさは大したことは なかったが数が凄かった。広海以外の釣り人はそれほどでもなかったので、不思議といえば不思議だが、そのカラクリに 感付けないほど鈍くはない。恐らく、海中で遊んでいたミチルが魚を追い込んでくれたのだろう。素直に嬉しかったが、 ミチルは自分が食べる分の生魚を確保するために広海に釣らせていたのだろうと思うと、少々複雑な気持ちになった。 一人で食べるには多すぎるし、冷凍保存しようにも冷蔵庫が狭すぎて溢れるので、広海はこれまでの御礼を兼ねて 釣れた魚を202号室のアビゲイルに分けることにした。アビゲイルは喜んで受け取ってくれ、茜ちゃんにもお裾分けして いいかしら、と聞いてきたので快諾した。ミチルもアビゲイルとは仲が良いので、ちゃんと話せば解ってくれるだろう。 自室に帰った広海は荷物を置き、フロートジャケットなどを脱いでから、ミチルを居間のビニールプールに召喚した。 水飛沫を散らしながら降ってきたミチルは、遊び回ってさすがに疲れたのか、ビニールプールに身を沈めて程なくして 寝入った。広海はその寝顔を眺めて頬を緩めたが、釣ったアジを加工もせずに放っておくのは良くないと思ったので、 アジを調理して夕食を作るついでに加工した。冷凍保存するため、頭を落として内臓を出して水洗いしなければならない。 釣りと同様に子供の頃から海に慣れ親しんだおかげで魚の処理は出来るので、広海は手早くアジの頭と内臓を外した。 「…ん」 ごぽ、と小さく泡を吐き、ミチルが目を覚ました。長い髪から水を滴らせながら起き上がり、広海を見上げた。 「結構釣れたのね」 「うん、だから処理しておこうと思って」 広海がアジの頭を切り落として腹を裂いていると、ミチルは身を乗り出した。 「ちょうだい」 「ああ、これ? 身じゃなくていいの?」 広海がボウルに溜まったアジの頭と内臓を指すと、答えずにミチルは手を伸ばした。遊んで眠ったから腹が減った とは、生理現象としては正しいが子供っぽくもある。広海は微笑ましく思いながら、アジの頭と内臓をミチルに渡した。 「人間は勿体ないことするわね。食べないで捨てるなんて」 ミチルはアジの頭を難なく噛み砕き、飲み込んだ。広海は魚の血と脂にまみれた手を洗い、返した。 「残念だけど、食べるに食べられないんだよ。歯や顎もだけど、体そのものの構造が違うから」 「つまんないわね」 ミチルは大きく口を開き、アジの内臓を放り込んだ。いずれもアジの新鮮な血にまみれているので、おのずとミチルの 口元や顎にはアジの血混じりの水が伝い落ち、肉食魚らしい様相になった。だが、広海は怖いとは思わず、血の赤さに 彩られた唇や雫が散らばる胸元に目を惹かれた。ミチルは一心にアジの頭と内臓を食べているので、広海の視線には 気付いていないようだったが、広海はなんだか気まずくなってアジの処理作業に戻った。 アジだらけの夕食を終えた広海は、釣り道具の手入れをしながらミチルの傍にいた。ミチルは話し掛けてくることは なかったが、こちらに気を向けているらしく、たまに付けっぱなしのテレビから目を外しては広海を窺ってきたが、目が 合いそうになると慌ててそっぽを向いた。広海は水洗いして砂と塩を落とした竿を拭きつつ、ミチルに声を掛けた。 「楽しかった?」 「退屈凌ぎ程度にはね」 「じゃ、また行こうか。今度は別のポイントで釣ってみようと思うんだ」 「勝手にすれば」 「うん、勝手にするよ。ミチルがどうしても行きたくないって言うなら、召喚しないけど」 「ばっ…!」 ミチルはざばっと水を散らしながら腰を浮かせたが、広海が怪訝な顔をするとまたビニールプールに戻った。 「馬鹿じゃないの。私が広いところで泳ぎたくないわけないじゃない」 「そっか」 「当たり前でしょ」 ミチルは冷ややかに言い返したが、語尾が弱っていた。広海はミチルの表情を見ようとするが、ミチルはすかさず 身を捻って顔を見せようとしなかったが、機嫌がいいのか尾ビレは揺れている。広海は竿をケースに片付けながら、 今まで訊くに訊けなかったことを訊いてみた。 「ミチルってさ、歌は歌うの?」 「そりゃ、人魚だもの。歌うわよ」 「どういう歌?」 「魔術師になりたいくせして、そんなものも知らないわけ?」 「人魚の歌がどんな歌かは知らないわけじゃないけど、細かいことまではね。僕が専攻しているのは技巧魔術で、 魔術文化じゃないから。良かったら、歌ってくれない?」 「なんで私がそんなことしなきゃならないの」 「だって、聴いてみたいし」 広海は好奇心に任せて迫るが、ミチルは渋った。 「大したもんじゃないし、人に聴かせるほど上手くはないし、それに…」 「でも、歌は歌じゃない」 「仕方ないわね。但し、一度だけよ。二度は歌わないからね」 ミチルは赤らんできた頬を隠すため、広海に背を向けた。歌を聴きたいと言われたのは初めてだが、正直言って 恥ずかしくてたまらなかった。もちろん、ミチルもそれなりに歌えるが、人魚の歌は人間の歌とは概念が異なっている。 人間は娯楽と芸術のために歌うが、人魚の歌は攻撃と威嚇、求愛行動だ。歌なんて歌ったら、広海に対する好意が 剥き出しになってしまう。人魚族の言語で歌えば広海には歌詞は解らないだろうが、それでも恥ずかしいものは 恥ずかしい。ミチルはしばらく迷ったが、深く息を吸って肺を膨らませると、近所迷惑にならない程度に歌い始めた。 愛の歌だった。 階下から聞こえる歌声に、茜はメールを打つ指を止めた。 真夜から送られてきたメールに返信した後、耳を澄ませた。茜を下両足の胡座の上に座らせているヤンマも 触角を立てて、歌声に聞き入っている。声こそ違うが、メロディーと歌詞はショッピングモールで魚の世話をしていた ポニーテールの人魚が歌っていた歌と同じものだった。茜は携帯電話を閉じてから、ヤンマに寄り掛かった。 「ミッチーの歌だね」 「違いねぇ」 ヤンマは背を丸めて茜の背に覆い被さると、彼女の後頭部に顎を載せた。 「俺はこういうのはさっぱり解らねぇが、綺麗だな」 「うん、凄く」 茜は目を閉じ、ヤンマに身を委ねた。ミチルの喉から紡がれる歌声は、伸びやかでありながら繊細で、確かな情熱が 込められていた。人間では到底出せない音階を容易に操り、空気を震わせる。ヤンマも茜も人魚族の言語はさっぱり 解らないが、ショッピングモールで魚の世話をしていた人魚の女性従業員、アサミによれば、この求愛の歌だそうである。 あなたを愛しています。出会えたことを喜びます。母なる海よ、この運命を祝います。だから、どうか、愛する人よ、 この歌を受け取って下さい。身も心もあなたに捧げます。それが私の愛の証です。 それが、アサミが歌っていた歌であり、今正にミチルが歌っている歌でもあった。だが、ミチルの歌はアサミの歌とは 違い、細く紡がれた声が切なげに震えていた。不安げでもあり、悲しげでもあり、必死ささえある歌声だ。聴いていると、 次第にミチルの感情に引き摺られそうになるほどだった。 茜はヤンマの足に縋り付くと、ヤンマは茜を抱き寄せてくれた。ミチルは間違いなく恋をしている。思い人は他でもない、 岩波広海だが、彼女が伝えたい思いを乗せた歌は届いていないのだろう。だから、ミチルの歌声は、今にも千切れて しまいそうな糸のように危うかった。 近いからこそ、届かないものもある。 ←・→ タグ … !859◆93FwBoL6s. *人外アパート
https://w.atwiki.jp/isommelier/pages/43.html
ソムリエ様、お願いいたします。 本日ふと、人外+人間のコンビものを読みたいと思いました。 人外と人間は、本意不本意にかかわらずコンビ。 人外は、人間とは生きる時間の流れが違っていて、それをネタにしたエピソードがある。 人外、人間ともに年齢は問いません。 なごむエピと殺伐エピが入り乱れる構成(グロ要素は歓迎します)。 漫画、小説でお願いします。入手可能であれば、映像でも結構です。 お手数をおかけいたしますが、該当を思い浮かべた姐様、 どうぞよろしくお願いいたします。 人外+人間のコンビものは、 11-17(人外主従) 34-39(ロボット)でも 質問がありましたので、そちらも参考になるかもしれません。 既出じゃないものから1冊を…(ハヤカワFT文庫) 「ドラゴンと愚者」パトリシア・ブリッグズ 父親の虐待から逃れる為、頭が足りないふりをしていた領主の息子が主人公。 父が急死した時、今までの演技のせいで、領主の座は父の弟にいってしまい、 主人公は病院送りが決まってしまう。 18歳ぐらいに見える少年(城の精で、実は…)が主人公の前に現れ、 彼を新領主として忠誠を誓う。 主人公(戦士)と「城」(魔法使い)の旅が中心のファンタジィなのですが、 人外である魔法使いが、とにかく主人公の側を離れたがらず、 主人公弟が嫉妬に駆られたりします。 国王の寵愛を受ける青年貴族がいたり、男性双子2組含め、兄弟愛度も高いです。 男女の恋愛はほとんどなし。 作者がまだ未熟な感じもありますが、 1冊完結で読みやすいし、昨年発売でまだ入手しやすそうです。 有名どころですが藤田和日郎の「うしおととら」はいかがでしょう。 90年代に少年サンデーに連載されていた33巻の長編漫画ですが ご依頼の要素をかなり満たすのではないかと。 少年「うしお」と妖怪「とら」の不本意ながらのコンビ とらは妖怪なので、遥か昔から生きている 週刊少年誌連載らしく、短いほのぼのエピソードと 長いシリアスエピソードの両方があります ワイド版、文庫版などで再販されてますので入手可だと思います 個人的には、歴代ベストに入る漫画なのですが、いかにも少年漫画的な 絵とストーリーですので、お好みに合うかどうか スニーカー文庫ラグナロクシリーズはいかがでしょうか? 粗暴な賞金稼ぎの人間とクールかつ天然な剣(人型にもなれる)の相棒同士です。 お互いにここぞという場面でとても信頼し合っているのがニヤニヤします。 人間のほうが厳密に人間と言い切れるかが微妙ですが、それ以外は全部あてはまっているかと。 板内のライトノベル総合スレで「神々の黄昏」としてちらっと話題にのぼってますので そちらも参考にして頂ければ。 条件の二番目のエピソードは今のところなく(まだ四話目が放映したばかりです) また、漫画・小説ではない映像作品なのですが、 TX系で水曜日放映の特撮ドラマ「ケータイ捜査官7」はどうでしょう? 男子高校生と、動いて喋って戦って説教もする携帯電話がなりゆきでコンビを組みつつ 特殊機関の捜査官として犯罪事件に立ち向かうお話です。 男子高校生はちょっと冷めた無気力な感じ、携帯はそんな彼を一人前の捜査官に 育てようと一生懸命だったりと、喧嘩しがちなデコボココンビですが、 携帯電話の動きがコミカルで可愛く、遣り取りも和みます。 また、殺伐エピとまではいかないかもしれませんが、携帯電話のライバル的存在に 人間を悪の道に誘うダークサイドの携帯電話がいて、襲い掛かりつつも自分と同じ道に 進むように誘ったりと、お約束ながら萌える関係性も見られます(両方携帯ですが…) 指定の条件を満たしきれてないのですが、いくつか当てはまりそうでしたので もしご興味をひかれましたら。
https://w.atwiki.jp/ocg-o-card/pages/11108.html
《先導する蛇使い ルンルン》 効果モンスター 星4/闇属性/魔法使い族/攻1600/守 800 1ターンに1度、手札を1枚捨てる事で自分フィールド上に 「魔蛇トークン」(爬虫類族・闇・星1・攻/守1000)を1体特殊召喚する。 「魔蛇トークン」は生け贄にできず、戦闘によって破壊された場合、破壊した モンスターを破壊する。 自分フィールドに爬虫類モンスターが存在する場合、このカードを攻撃対象に 選択できない。 part20-731 作者(2007/09/30 ID kn3Ua5Kd0)の他の投稿 part20-760 コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/cfvanguard/pages/751.html
ロイヤルパラディン(騎士王の先導者 エゼル軸) ロイヤルパラディン(騎士王の先導者 エゼル軸) 主なカードキーカード サポートカード トリガー考察について プレイング考察 弱点と対抗策 コメント サンプルレシピ 外部リンク 主なカード キーカード 《騎士王の先導者 エゼル》 《騎士王 アルフレッド》 サポートカード トリガー考察について 内容 プレイング考察 内容 弱点と対抗策 内容 コメント デッキの編集議論に。雑談をする場合などは共有掲示板をご利用ください。 これ軸の -- 2015-03-28 01 05 53 これ軸の場合 宝石騎士型のレシピもあっていいんじゃないかな? -- 2015-03-28 01 07 55 アルフレッド4枚はいらないような気がする。何かサブVと2枚チェンジするのがベストなのでは? -- 2015-04-27 21 53 27 コメント すべてのコメントを見る サンプルレシピ +... メインデッキG ユニット 枚数 備考 0 道標の賢者 エルロン 1 FV ぴろろ 4 まぁるがる 4 静かなる賢者 シャロン 4 閃光の奏者 ニヴィアン 4 1 光の剣士 ブラスター・レイピア ローラ 4 光の剣士 ユーノス 4 閃光の盾 イゾルデ 4 烈風の騎士 フディブラス 3 2 光の剣士 アーメス 4 ブラスター・ブレード 3 救国の賢者 ベノン 3 3 騎士王の先導者 エゼル 4 騎士王 アルフレッド 4 GデッキG ユニット 枚数 備考 4 転生竜 ホーリースクワイヤ・ドラゴン 4 レインエレメント マデュー 4 外部リンク カードファイト!! ヴァンガード Wiki カードファイト!! ヴァンガード 共有掲示板
https://w.atwiki.jp/niconicomugen/pages/833.html
前回のあらすじ 解説 シュマゴラスは俺の嫁と豪語するうp主によるタッグトーナメント。 その題名通り、人外しか出てこない。普段はめったにみないような人外も見ることが出来る。 動画の初めに前回のあらすじがついているので、ちょっと時間を置いても安心して見れ…る…よ…多分 第1回 ※この動画は投稿者により削除されています。 第2回 + 出場キャラクター 出場キャラクター タコダコチーム(シュマゴラス&スーパー8) マスコットチーム(ピングー&シナモン) 正義のチーム(ジャスティス&アンパンマン) ガンジーチームmk2(サンドバッグくん&コイキング) ぶるぁああああああチーム(メカ沢新一&CV若本) 場をかき乱すチーム(ヨコハマタイヤ&マーズピープル) カラクリチーム(先行者&機巧おちゃ麻呂) みどりだいじにチーム(エイリアン・グリーン&ヨッシー) 新生モンスターチーム(スプー&レッドアリーマー) カメ&カメ(カメック&ドナテロ) ボッツチーム(ワーロック&G・ヴァイス) 人間を辞めたチーム(DIO&咲夜ブランドー) 星野さんチーム(カービィ&バグジー) メタさんチーム(メタナイト&バイオスパーク) エイリアンとプレデター(プレデター・ウォリアー&エイリアン・ウォリアー) AAチーム(ブーン&ジョルジュ長岡) おまけ ひろし ドナルド R-9 マジンガーZ モンゴリアン orzタワー 初音ミク マリオ ルイージ クッパ 霧雨魔理沙 マスターハンド F・タランテラ 紅美鈴 たみ☆ふる巫女 ファウスト リュウ 第3回 + 出場キャラクター 出場キャラクター 軟体チーム(シュマゴラス&ヌール) 古のチーム(アナカリス&レジスチル) 正義チーム(ジャスティス&アンパンマン) サンドバッグズ(サンドバッグくん&ボーナスくん) ゆっくりしね!(霧雨魔理沙&博麗霊夢) ぶるああああ!!(CV若本&メカ沢新一) 白い悪魔チーム(ブーン&シナモン) 燃え盛る赤いチーム(ドラゴンクロウ&シャア専用ズゴック) 図形&記号(テトリスマン&orzタワー) 恐怖の宇宙人軍団(エイリアン・グリーン&マーズピープル) エイリアン&プレデター(プレデター・ウォリアー&クリサリス) 星野さんチーム(カービィ&メタナイト) カオスチーム(ヨコハマタイヤ&スプー) シューティングチーム(R-9&ビックバイパー) ボッツチーム(ワーロック&ヘリオン) でっかいチーム(ブレイド&ハウザー) おまけ 不破刃 プクプク DIO ドナルド リュウ モンゴリアン サムス・アラン エイリアン・クイーン アビス チップ・ザナフ 神人豪鬼 カンフーメン バトルウィンドウズ 川澄舞 アレックス 機巧おちゃ麻呂 ジェネラル(カイザーナックル) シン(北斗の拳) 博麗霊夢 バイト クッパ たみ☆ふる巫女 ファウスト ジョルジュ長岡 ED209 シルバーサーファー 橘右京 チャン・コーハン 空条承太郎 天草四郎時貞 コメント w -- 名無しさん (2008-05-25 03 41 02) 意外とじんがって多いな -- 名無しさん (2008-05-25 03 48 16) 「ピロ・ピロピロ」「ガシャーンガシャーンガシャーンガシャーン…」って感じの試合内容 -- 名無しさん (2008-05-25 07 24 36) 名前 コメント マイリスト 動画